2020年に公開されたアリ・アスター監督の作品『ミッドサマー』は、公開当初から「この映画をカップルで見ると別れる」という噂で話題になりました。
今回は、『ミッドサマー』をまだ鑑賞していない方やすでに観た方向けに、作品の概要や謎めいたシーンの解説を提供します。
この映画は単なるホラー映画を超えて、人間の感情に深く切り込む傑作だとも感じます。
それでは、始めましょう!
独自のスリラー体験を提供する唯一無二の『ミッドサマー』
一般的に、ホラー映画は暗闇の中が多くのシーンを占めるイメージですよね。
しかし『ミッドサマー』明るくて爽やかな雰囲気が特徴です。
舞台となるホルガ村の人々は陽気で仲が良く、白夜の明るい空が物語の9割を占めています。
物語は夏至祭のお祭りに合わせて進行し、民族的な楽曲が作品に生き生きとした彩りを添えます。
本当にホラー映画?と思ってしまうかもしれませんが、ご安心ください!
これまでのホラー映画よりも遥かに恐ろしい、既存のホラー映画のイメージを完全に覆す「怪奇祭典物語(フェスティバルスリラー)」なんです。
『ミッドサマー』あらすじ(ネタバレなし)
大学生のダニーは恋人のクリスチャンに心を寄せる学生。
しかし、依存気味のダニーに辟易しているクリスチャンは内心別れたがっています。
民俗学を専攻するクリスチャンは、スウェーデンにあるホルガ村の夏至祭「ミッドサマー」に参加する計画を友人たちと立てていました。
ダニーも成り行きでミッドサマーに同行することになりますが、クリスチャンを含む友人たちは彼女を不快に感じていました。
ホルガ村で優しい住民に温かく迎えられたダニーたちですが、祭りが進むにつれて一行は祝祭の恐ろしい慣習を目の当たりにしていくことになります…。
『ミッドサマー』キャスト・スタッフ
監督・脚本 | アリ・アスター |
ダニー | フローレンス・ピュー |
クリスチャン | ジャック・レイナー |
ジョシュ | ウィリアム・ジャクソン・ハーパー |
マーク | ウィル・ポールター |
ペレ | ウィルヘルム・ブロングレン |
マヤ | イザベル・グリル |
サイモン | アーチー・マデクウェ |
コニー | エローラ・トルキア |
ダン | ビョルン・アンドレセン |
現在30代の若手監督、アリ・アスターが手がけた本作は、長編映画としては2作目となります。
アスターの前作、長編デビュー作品である『ヘレディタリー/継承』は、その恐ろしさで「21世紀最も怖いホラー映画」と称されました。
『ミッドサマー』でも、斬新で洗練された脚本や表現力の高さが注目されています。
『ミッドサマー』が視聴できるサービス
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『ミッドサマー』のネタバレあらすじ
以下、ネタバレを含む内容となりますので、未鑑賞の方はご注意ください。
家族と死別するダニー
ある冬の日、精神疾患を抱えたダニーの妹が意味深なメールをダニーに送信した後、連絡が取れなくなります。
不安になったダニーは妹と親に何度も連絡しますが、電話は繋がりません。
一方、恋人のクリスチャンは依存気質なダニーからの執着に嫌気が差していましたが、中々別れを切り出せませんでした。
そんな中、ダニーからの電話に出たクリスチャンは、ダニーの泣き声を聞き驚きます。
妹が両親を巻き込み無理心中を図ったことで、ダニーは家族を失ってしまいました。
ダニーはクリスチャンに抱きつき泣き叫びますが、クリスチャンは共に悲しんではくれず、ただその姿を眺めているだけでした。
スウェーデンの夏至祭に参加するダニー
翌年の夏、クリスチャンは大学生の友人ペレの出身地であるスウェーデンへの旅行を計画していました。
スウェーデンの奥深き森にあるホルガ村で、90年に1度しか行われない特別な祝祭「夏至祭(ミッドサマー)」に、ペレが友人であるクリスチャン、また共通の友人であるジョシュとマークを招待していたのです。
しかし、クリスチャンはダニーに旅行のことを話していませんでした。
家族を失ったダニーはますますクリスチャンに依存するようになっていたため、旅行の件を知らせることに後ろめたさを感じていたのです。
その後ダニーが突然旅行の計画を知ってしまうと、クリスチャンは仕方なくダニーを旅行に誘います。
ペレはダニーの参加を喜びましたが、他のメンバーは彼女を煩わしく思いながらも同行を許可します。
一行がスウェーデンに到着し、一行は常に明るい白夜の中で過ごしながら、目的地のホルガ村に向かって歩きます。
ホルガの住民たちは特徴的な白い民族衣装で迎え、穏やかで楽しげな雰囲気に一行も良い気分になりました。
ホルガの長老であるシヴは、一行に今年の夏至祭が90年に一度の大祭であると説明します。
ホルガの人々は古代ルーン文字を使用し、特徴的なタペストリーなどを飾っており、一行は興味津々でした。
そして、次の90年をつなぐ重要な9日間の祝祭が始まったのです。
徐々に明かされるホルガ村の狂気
ダニーたちは「アッテストゥパン」という儀式に参加することを知らされます。
ダニーは「アッテストゥパン」の意味をペレに尋ねましたが、彼はなぜか答えませんでした。
翌日、ホルガの住人たちと食事をした後、2人の老人が灰色の装束を着て現れ、巨大な崖へと移動します。
彼らは崖の上で儀式を行っているようでしたが、他の住民と共に崖のふもとで見上げるダニーたちにはその様子が見えませんでした。
しかし次の瞬間、なんと2人の老人は崖を飛び降り自殺してしまいました。
当然ダニーたちはショックを受けますが、長老のシヴが「これはホルガの慣習である」と説明しました。
なんとアッテストゥパンとは、72歳を超えた高齢者が自ら死を選び、命の循環を行うという風習だったのです。
ホルガの人々はアッテストゥパンにより命が循環する(=新たな赤子が誕生する)と信じており、自殺すること自体が大きな喜びと考えていたのです。
突然姿を消す友人たち
アッテストゥパンの出来事をきっかけに、ダニーたちは考え方に違いを感じ始めます。
ペレと同じ留学生のイングマールが連れてきたコニーとサイモンも、凄惨なアッテストゥパンを目の当たりにし、村から脱出したいと考えるようになります。
しかし、コニーとサイモンが帰り支度をしている最中、サイモンが突然姿を消してしまいます。
コニーはサイモンを探し始めますが、やがてコニーも同じく姿を消してしまいます。
ダニーたち一行の友人の1人であるマークも、村で出会った女性に誘われた直後、姿を消してしまいます。
次々と姿を消す友人たちに不安になったダニーは、ペレになぜ私たちを招待したのか問い詰めます。
ペレは「大切な家族たちを見てもらいたかった」と語ります。
ペレは逆にダニーに、クリスチャンにぞんざいに扱われていることを疑問視し、「彼に大事にされていると思う?」とダニーに問いかけました。
ダニーはペレの問いかけに答えることができず、言葉が詰まってしまいます。
一方、クリスチャンはアッテストゥパンの経験を論文のテーマにしようと考えており、ジョシュにそのことを告げると、ジョシュは彼を批判します。
ジョシュは別の取材をしている間に、ホルガ村の聖典であるルビ・ラダーに関する情報を入手します。
ジョシュは夜中にルビ・ラダーの倉庫に忍び込みますが、何者かに襲われ、倒れたジョシュの前にマークの顔の皮を被った者が現れます。
次の日、ホルガの人々との食事をしているのはダニーとクリスチャンだけになりました。
ダニーがメイクイーンになり祝祭の儀式が行われる
不在の人々への心配を抱えつつも夏至祭は続き、ダニーは「メイポールダンス」という儀式に参加することになりました。
この儀式は娘たちが花冠をかぶり大きなポールの周りを踊るもので、最後に残った者がその年のメイクイーン(女王)として祝われます。
ダニーが踊り続けていると次々と娘たちが倒れ、なんと最後に残ったのはダニーで、彼女はメイクイーンに選ばれました。
一方、クリスチャンはダニーが踊っている間、長老のシヴに呼び出されていました。
クリスチャンは、シヴにホルガの女性マヤとの性行為を許すと告げられたのです。
マヤは赤毛の女性で、これまでにクリスチャンに興味を示しており、シヴの発言に動揺を隠せないクリスチャンは部屋を出ました。
その後クリスチャンは謎の飲み物を受け取り、戸惑いながらも飲み干しました。
錯乱したクリスチャンは自制心を失い、マヤに導かれるようにその場を去ってしまいます。
クリスチャンはある部屋に案内され、そこには全裸のマヤと、周りにはなんと全裸の12人の女性たちが待ち構えていました。
全裸の女性たちに促されながらクリスチャンとマヤが性交を始めると、彼女たちも段々喘ぎ声をあげ始めます。
メイクイーンとしての役目を果たしたダニーは、大きな喘ぎ声が聞こえてくる小屋を奇妙に感じて近づき、クリスチャンとマヤの性交を目撃してしまいます。
吐き気を催しながら泣き出すダニーの周りを13人の侍女が取り囲み、共に涙を流しました。
ついに始まる制裁と生贄の儀式
行為が終わり、クリスチャンは正気に戻って逃げ出しますが、先の庭に埋まっているジョシュの足を見て声を失います。
鶏小屋に駆け込んだクリスチャンは、行方不明になっていたサイモンが皮を剥がれて内臓がむき出しになっている姿を目撃します。
恐怖に震えるクリスチャンは、ホルガ村の人々に捕まり、意識を失ってしまいます。
クリスチャンが目を覚ますと、そこでは生贄の選定が行われていました。
ホルガ村の人々によって、クリスチャンは言葉も発せず体を動かせない植物人間状態にされていました。
儀式では、ホルガの住人4人と外部から来た4人、そしてメイクイーンが選ぶ1人の計9人の生贄が必要とされています。
ホルガの住人からは、先日飛び降り自殺をした老人の2人の他、イングマールとウルフが生贄に志願します。
外から来た者は、サイモン、ジョシュ、マーク、そして行方不明だったコニーも生贄となっていました。
最後に選ばれるメイクイーンの生贄には、ホルガ村の住人かクリスチャンかとの問いに、ダニーはなんとクリスチャンを選びます。
催眠によって体も動かず口も聞けないクリスチャンは、熊の死体の中に入れられ、黄色い三角形の建物の中に置かれます。
まだ息があるイングマールとウルフに囲まれたクリスチャン。
神殿が燃え始めると火が勢いよく上昇し、ウルフは炎の熱さに痛みの叫び声をあげます。
神殿を見守るホルガの人々は、ウルフの叫び声に同調して叫び狂い始めました。
ホルガの人々に囲まれたダニーも同様に取り乱していましたが、神殿が燃え尽きると、意味深にそっと微笑むのでした。
【追加情報】物語の補完を行うディレクターズ・カット版
『ミッドサマー』のディレクターズカット版には、劇場公開版には含まれていなかったシーンが挿入されています。
このバージョンでは、本編の謎を解明するシーンがいくつか追加されているので、それについていくつか紹介していきたいと思います。
コニーの死を暗に示す川の儀式
白夜のホルガ村では、ほとんどの儀式が日中に行われますが、その中で唯一真夜中に行われるのが「川の儀式」です。
ディレクターズカット版では、この儀式の様子を見ることができます。
この儀式は暗闇の中で行われる珍しいものであり、さらに住民による演劇の要素が取り入れられています。
川の儀式は誰も犠牲にならなかったものの、その儀式の様子は、ラストで死体として登場したコニーを暗示しています。
コニーの死体は、収穫物を運ぶ一輪車で黄色の神殿に運ばれていきます。その姿は川の儀式で少年に施された装飾と同じものをしています。
本編ではそのシーンは描かれていませんが、コニーがサイモンを探し始めて登場しなくなった後に、ダニーたちが誰かの叫び声を聞くシーンがあります。
その叫び声はおそらく、コニーが川に投げ込まれた際のものだったのでしょう。
クリスチャンとマヤのやり取り
アッテストゥパンを経験したクリスチャンが、ジョシュにホルガ村を論文のテーマにしたいと伝え、口論になります。
その後、クリスチャンは真剣に研究に取り組んでいるというアリバイを作るために、ホルガ村の人々に質問をするシーンが描かれます。
マヤに偶然話しかけることになったクリスチャンは、マヤに気持ちを伝えるために英語が話せないという状況に戸惑います。
代わりに英語が話せるウラという女性がクリスチャンの質問に答えます。
ディレクターズカット版では、本編よりも多くのシーンが追加され、特にマヤの存在がクリスチャンとの関係により深く関わるように描かれています。
また、ディレクターズカット版ではクリスチャンの自己中心的な性格がより強調されており、ダニーに対して論文の決定についてのセリフや、ダニーが謝ると無神経に返す様子などが描かれています。
「元恋人を完全に忘れたい!」という方には、ディレクターズカット版がストレス解消に役立つかもしれませんね。笑
『ミッドサマー』のネタバレ解説と考察
『ミッドサマー』のあらすじをご紹介しましたが、これからはその展開やメッセージについて考察していきましょう!
祝祭の供物として捧げられた人々の死因
物語の結末により、これまでの死は夏至祭の生贄儀式の一環だったことが明らかになりました。
ここでは、各死因をメタファーや物語の構造から分析していきたいと思います。
それぞれの死者にフォーカスする前に、アリ・アスター監督のインタビューから一部をご紹介します。
アスター監督は『ミッドサマー』を「変態のためのオズの魔法使い」と表現しました。
このオズの魔法使いのキャラクターをダニーたちに当てはめると、興味深いものが浮かび上がります。
- ドロシーのように家族を求める主人公ダニー。身寄りのない彼女は家族の温かさを探している。
- カカシのように愚か者のマークを持つマーク。愚かな行動によって苦しむ彼は、神殿の中で藁を積み上げられる。
- ブリキの木こりのように心を失ったジョシュ。自己中心的な彼は、ホルガの人々の忠告を無視して研究を追求する。
- 臆病なライオンのようにクリスチャン。彼はダニーに別れを告げる勇気を持てず、結果として熊の中に敷き詰められて死亡する。
皮剥ぎの刑を受けたマーク
マークは、外部からやって来た者として初めて殺されてしまう人物です。
彼はダニーたちと一緒に旅行に参加したが、スウェーデンの女性と関係を持ちたいと望んでいただけで、村の文化に無関心でした。
その後、先祖の木に尿をかけてしまったことで村の怒りを買い、結局は皮を剥がれて死んでしまいます。
ダニーたちが到着した直後、子ども達が「愚か者の皮剥ぎ」という遊びを行なっていますが、後に儀式の一環だったことが明かされました。
マークを殺した犯人は、恐らくホルガの住人ウルフでしょう。
ウルフは木に尿をかけたマークを怒っていた人物で、食事中にもマークを睨みつけていたため、殺すことを決意していたのかもしれません。
ウルフは、後述するジョシュの襲撃の際に、なんとマークの皮を被って登場しました。
初めて遠くから現れた皮剥ぎのマークをよく見ると、下半身にズボンを穿いていません。
これはマークがスウェーデン女性との性交中に殺されたことを暗示しています。
マークを殺したウルフは、自分の友人の愚かさを示すために、顔だけでなく下半身の皮も剥ぎ取って、哀れなマークの姿になりきったのではないかと思われます。
この皮剥ぎのシーンは、アリ・アスター監督が今作『ミッドサマー』を制作する際に意識したとされる映画『悪魔のいけにえ』を連想させます。
『悪魔のいけにえ』というカルト映画は、人の皮を被った巨大な大男、レザーフェイスが悪魔のように人々を惨殺していく姿を描いています。
ホルガの人々は規律と調和を重んじるため、マークはエゴを持った愚か者であり、神と同等の扱いを受ける先祖の木を汚す「悪魔」と見なされていたのかもしれませんね。
聖典の内容を盗撮し罰を受けるジョシュ
ジョシュは自らの研究論文のために、聖典であるルビ・ラダーを盗み見た後、殺されました。
ジョシュは勤勉で真面目な性格の人物として描かれていますが、自分の研究以外のことには無関心な印象を受けます。
ダニーがスウェーデンの旅行に行くことが決まった際、ペレは優しくダニーに話しかけましたが、ジョシュは話しかけるそぶりすら見せませんでした。
さらに、クリスチャンがジョシュにホルガ村の論文を書くように言った際、ジョシュは自分の研究の邪魔をするなと言い、これまで何もしてこなかったクリスチャンを激しく非難しました。
これらの発言や行動から、ジョシュはただの旅行目的でついてきた友人達を見下していると捉えられます。
ジョシュは自分の研究論文のためにルビ・ラダーを写真に収める禁忌を犯し、ホルガの住民に殺されました。
ラストシーンでジョシュがホルガ村の庭に埋められるという末路は、彼のエゴイストな態度に対する報復だったのかもしれません。
血のワシの刑を受けたサイモンと川の贄にされたコニー
ペレの友人であるイングマールが連れてきた大学生カップル、サイモンとコニーも生贄になっています。
クリスチャンが鶏小屋で目撃したサイモンは肺が露出しており、その肺が膨張と収縮を繰り返していたため、彼がまだ生きていた可能性があります。
この残忍な姿は、後期スカルド詩の「血のワシ」と呼ばれる処刑方法に類似しています。
「血のワシ」は生きたまま肺を引きずり出し、翼のように広げる様子からその名がつけられましたが、史実として確認されているわけではありません。
また、ラストシーンで湿ったままの死体となっていたコニーは、ディレクターズカット版における川の儀式の生贄にされていました。
サイモンとコニーは、アッテストゥパンを目撃した後、ホルガの慣習を激しく非難していました。
その時から、彼らはホルガの住民にとって儀式を妨害する邪魔者と見なされていたのでしょう。
ダニーが女王となった後、地中に供物を埋める場面が描かれますが、そこでは卵と穀物と肉が供えられていました。
この場面から、サイモンは卵を生み出す鶏に、コニーは穀物を育てるための水を供給する川になぞらえられたのかもしれません。
現在でも食料や水を得るために祈祷や呪術が行われることは一般的ですが、儀式に人の命を捧げるホルガ村の異常さが垣間見えるシーンです。
熊と融合させられたクリスチャン
クリスチャンは、最終的な生贄として熊の体内に閉じ込められ、燃やされながら死にました。
物語の中で、熊は生きたまま檻の中に入れられるシーンや、クリスチャンが待合室で熊の絵を見つける場面など、深い意味を持つ描写があります。
熊は北欧神話において重要な象徴であり、獰猛で強力な生物として捉えられる一方で、成長や発展のシンボルとしても尊ばれます。
このことから、ホルガ村では熊は畏怖と信仰の双方を象徴する存在と見なされています。
物語のさまざまな場面で、クリスチャンは常に2つの選択に苦しんでいる描写があります。
- ダニーと別れたいが、家族を失ったばかりの彼女を傷つけたくない
- マヤが気になっているが、ダニーという恋人がいるためアプローチできない
結局のところ、マヤとの性的な儀式に参加したクリスチャンは、その行為によって罰せられることとなりました。
誘惑に負けたクリスチャンは、野生の動物と同様の行動を取ったとも解釈できます。
熊の皮を被って死んでいったクリスチャンは、熊と同じく以下のような相反するものを象徴していると考えられます。
- 野生と理性
- 人間と動物
- ダニーとマヤ
- 邪悪と発展
さらに、前述した地中に供物を埋める儀式では動物の肉も供えられていますが、生きるために必要な食物としてクリスチャンがなぞらえられたのでしょう。
2人の老人がアッテストゥパンで飛び降りる
ホルガ村の住民たちの中には、「外からの者」以外にも生贄にされた者がいました。
その中で、イルヴァ(女性)とダン(男性)は、アッテストゥパンの前に自ら命を絶ちました。
壇上でたいまつを手にしたイルヴァとダンを見送る長老シヴの言葉は、彼らがアッテストゥパンに向かう途中で、炎が彼らの命を永遠に栄え続けることを祈るものでした。
ウルフとイングマールの生贄志願
ウルフとイングマールは、自ら生贄を志願した結果、生きたまま火あぶりにされました。
興味深いのは、両者がイチイの木から採った何かを口に入れるシーンで、それぞれの儀式が微妙に異なる点です。
ウルフは「痛みを感じない」と言われ、イングマールには「恐れを感じない」と言われました。
この違いはさほど大きくはないように見えますが、火あぶりの際に悲鳴を上げたのは「痛みを感じない」と言われたウルフだけでした。
ウルフとイングマールは、火あぶりの際の自分たちの望みを祭祀に伝えていた可能性もあります。
イチイの木から採ったものには特別な効果はないでしょうが、自らの生贄となる覚悟を確認するための儀式として機能したのかもしれません。
イングマールは自らの死を恐れず、生贄になることを誇りに思い、叫ぶことはありませんでした。
一方ウルフは、肉体的な痛みを気にしていたので、死の際にまだ生きたいという思いがあったのかもしれません。
ペレとイングマールの対照的な関係
イングマールはサイモンとコニーが恋人になる前にコニーとデートをしていたと言っていたので、彼はコニーに想いを寄せていた可能性があります。
ペレもダニーの誕生日に似顔絵を贈るなど、ダニーに好意を寄せている描写があります。
しかし、メイクイーンとなったダニーを連れてきたペレが賞賛される一方で、儀式を批判したサイモンとコニーを連れてきたイングマールは生贄を志願する結果となりました。
以上のことからペレとイングマールは対照的に描かれており、コニーが途中で離脱せずメイクイーンに選ばれていたら、ペレが生贄を志願したかもしれないと推測することができますね。
物語を彩る象徴的な造形物や古代文字
ホルガ村には、さまざまな形をした造形物や文字が登場します。
これらは物語の進行を示唆したり、独自の意味を持っていることがあります。
暗示する意味合いを持たせるタペストリー
物語の冒頭やホルガ村の壁画には、さまざまな絵が描かれています。これらの絵は物語の展開を予示しているものが多くあります。
最初に登場するタペストリーは、物語全体を象徴しています。
左側には骸骨が描かれ、暗い背景色の中で孤独なダニーが家族を失う様子が表現されています。
その隣には悲しみに沈むダニーの横にクリスチャンが描かれています。
さらに上部には鳥と共に、男性が舞い降りている姿が描かれており、おそらくペレを表しているでしょう。
物語が進むにつれて、ホルガ村の特徴的な入口から人々に歓迎される絵が登場し、最終的にはダニーがメイポールダンスに参加する場面が描かれています。
ホルガ村に到着して、イングマールとペレが案内している間、タペストリーには興味深いシーンが描かれています。
恋する女性が自らの陰毛を料理に入れたり、月経血を飲み物に混ぜて男性に与える様子が描かれています。
これらの描写も、後に起こるクリスチャンとマヤの出来事を示唆しています。
その他にも、クリスチャンが燃える熊の絵を発見したり、寝室には9人の生贄とメイクイーンを表す絵があるなど、さまざまな興味深いディテールが隠されています。
探索することでさらに物語を楽しむことができます。
ホルガ村で度々見られる古代ルーン文字
ホルガの言語で使用されるルーン文字は「エルダー・フサーク」と呼ばれます。
「エルダー・フサーク」は実際に存在する最古のルーン文字の一つであり、紀元後約150年にまで遡る文字の形跡が残っています。
映画で登場する聖典「ルビ・ラダー」や、アッテストゥパンの崖の上にある石板に、このルーン文字が使用されています。
ちなみに、アッテストゥパン石板には以下の意味が刻まれていました。
・「ᚷ」(Gebo)=「贈り物」
・「ᚱ」(Raidho)=「旅」「進化」「成長」
・「ᛣ」(Algiz)=「盾」
・「ᛏ」(Tiwaz)=「名誉」「正義」「自己犠牲」
・「ᛈ」(Pertho)=「秘密」「超自然的な力」
これらの記号を組み合わせると、アッテストゥパンで使われた石板は以下のような意味合いがあると言えるでしょう。
『神に捧げる「贈り物」として、「名誉ある自己犠牲」を持つことで我らを守り、村の「進化」を「超自然的な力」で促進する「盾」となる』
また、「旅」「進化」「成長」を意味する「ᚱ」は、石板以外にもメイポールやダニーが身に着ける衣装にも同様に刻まれています。
ルーン文字を扱った聖典ルビ・ラダーの説明では、文字が永遠に刻まれて進化し続けると述べられていました。
これは、「ᚱ」の「進化」や「成長」を象徴しているかのようにも思えます。
ホルガの人々は古い慣習に固執しつつも、「進化」や「成長」を求め続けるという考え方は、ある意味で皮肉なのかもしれません。
【感想】『ミッドサマー』は失恋を癒す映画でもある
『ミッドサマー』の考察を通して、筆者が最も感じたのはダニーの家族への欲求と家族関係の意味でした。
ダニーは血縁の家族をすべて失い、不安定な精神状態に陥り、恋人のクリスチャンに強く依存するようになりました。
クリスチャンはダニーの執着に耐え切れず、彼女の依存心がますます増していくのを嫌悪しました。
ですがその過酷な境遇から考えると、ダニーの恋人であるクリスチャンに救いを求めたいという思いが、必ずしも間違っているとは言えないのではないでしょうか。
クリスチャンのダニーへの愛情は既に消え失せていたため、彼女の感情を共有するつもりがなかったのでしょう。
ホルガ村でメイクイーンに選ばれたダニーは、村の人々から温かく迎えられ、家族のような絆を感じ始めます。
また、クリスチャンとマヤの現場を目撃したダニーは泣き叫びますが、側にいたホルガの女性たちはダニーの感情に共鳴し、一緒に泣き叫びました。
そのシーンは正直言ってホラーものですが笑、ダニーにとってホルガの村の住人は、自分の思いに共感してくれる救いのある存在だと感じたのではないでしょうか。
それはダニーが生贄を決める際の決断に確実に影響しており、クリスチャンはダニーから見限られ火炙りの刑に処されてしまいます。
ダニーは燃え盛る炎と生贄の痛みに共鳴して泣き叫ぶホルガ村の住人を交互に見つつ、最後は満ち足りた様子で微笑みました。
以上のことから『ミッドサマー』は、ホラー映画の要素を多く含みながらも、愛する人との別れや傷つき、そして裏切り者への報復を通じてカタルシスを生み出し、失恋を癒す側面があるのではないかと考えられます。
『ミッドサマー』のネタバレ有り解説まとめ
今回は、『ミッドサマー』のネタバレを含むあらすじ解説と、物語に潜む伏線や考察について徹底解説しました。
とはいえ、この映画にはまだまだ多くの伏線が散りばめられており、何度見ても新たな発見がありそうなので、怖いシーンも含めてまた観たいと思います!
気になった方は、映画配信サービスやDVDレンタルで『ミッドサマー』をご覧になってみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました!